投稿日:2023.11.24
ワインで歯が溶けるってホント?日本人の4人に1人がかかっている酸蝕症とは?
横浜駅西口から徒歩3分、横浜駅前歯科・矯正歯科、歯科衛生士の浦木です。
いつもブログをご覧いただきありがとうございます。
さて、先週11月16日(木)はボージョレ・ヌーヴォの解禁日でしたね。
みなさんは飲まれましたか?
ボージョレ・ヌーヴォはフランスブルゴーニュ地方の南部に位置するボージョレ地区でその年に収穫されたガメイ種のブドウから造られる新酒ワインです。
毎年11月の第3木曜日に解禁され、日本では日付変更線の関係上、世界でいち早く楽しむことができます。
毎年解禁日には大きな盛り上がりを見せていますね。
そんな日本でも愛されているワインですが、その酸性度の高さから、酸が歯を溶かす『酸蝕(さんしょく)症』の原因になると言われています。
そこで今回は、歯を溶かすといわれているワインの特徴から、酸蝕症の症状・原因・治療法、ワインとの上手な付き合い方まで解説します!
目次
ワインってどんなお酒?
ワインとは?
広い意味では、果実を原料としたお酒をワインと呼びます。
しかし、一般的に「ワイン」という言葉は、ブドウを原料とした果実酒のことを指します。
一方で、ブドウを原料としていても、ワインを蒸留させたアルコール度数の高いブランデーはワインとは言いません。
ワインには多くの種類があり、色や製法、ブドウ品種や産地などによって分類されます。
最も基本的なものは、色の違いによる分類です。
赤い色の赤ワイン、黄色っぽい透明度の高い白ワイン、ピンク色のロゼワインがあります。
近年ではオレンジ色のオレンジワインも注目を集めています。
ワインの味わいの大事な要素“酸味”
全てのワインに備わっている大事な味わいの要素、それは“酸味”です。
ワインは、ビールや日本酒と比べると、かなり酸っぱいお酒です。
非常に酸味が強いものから、比較的酸味が穏やかなものまであり、醸造方法や原料となるブドウなどによって酸味が変化します。
ブドウ果汁中の酸が不足していると、ワインの味がボケたものになるだけではなく、有害微生物によるワインの汚染リスクが高くなります。
そのような場合、ブドウに含まれる主な酸の一種である酒石酸などの粉末をアルコール醗酵中やその後の熟成中に添加して、ワインの酸度を引き上げます(補酸)。
それとは逆に、果汁やワインの酸が強すぎて味のバランスが悪い場合には、炭酸カルシウムの粉末をワインに添加し、酸の量を減らすことがあります(除酸)。
ワインの酸性度
ワインの酸性度は、pHによって表されます。
pHは0から14までの数値で表されます。
pH7が中性で、それより数値が小さいと酸性、大きいとアルカリ性となります。
値が小さければ小さいほど酸性の性質が強く、大きければ大きいほどアルカリ性の性質が強いということになります。
ワインのpHは、一般的に3.2〜3.8程度と低く、酸性度は高めです。
酸蝕(さんしょく)症って何?
酸蝕症とは、歯の表面が酸性の飲食物や胃液などによって溶けてしまう疾患です。
虫歯も酸が歯を溶かす疾患として知られていますが、酸蝕症と虫歯は何が違うのでしょうか。
虫歯と酸蝕症の違い
虫歯は虫歯菌が飲食物中の糖質(炭水化物)を栄養として作った酸で歯が溶ける疾患です。
飲食をすると、虫歯菌によって酸が作られ、歯垢(しこう)中のpHが急激に低くなります。
pHが5.5以下になると、歯の表面のエナメル質から、歯の成分である“カルシウム”や“リン”が溶け始めます。
これらのミネラルが溶け出すことを脱灰(だっかい)といいます。
そのまま歯垢を放置しておくと、さらに脱灰が進み、歯に穴があいてしまいます。
あわせて読む≫≫≫『甘いものを食べると虫歯になるってホント?』
一方、酸蝕症は“細菌の関与しない科学的な歯の不可逆的な脱灰(だっかい)・溶解”と定義されています。
つまり、酸蝕症は細菌の作る酸ではなく、酸性の飲食物やサプリメント、薬剤などによって直接科学的に歯が溶けてしまうのです。
近年、酸蝕症は虫歯や歯周病に続く第三の歯の疾患として注目され、日本では国民の4人に1人が酸蝕症に罹患しているという報告があります。
日本で酸蝕症の罹患率が増加している背景の一つに、健康志向からお酢やワイン、ビタミンCのサプリメントなど酸性度の高い飲食物を頻繁に摂取する方が増えていることが挙げられます。
歯は硬くて弱い?
歯の表面は、エナメル質と呼ばれる組織で覆われています。
エナメル質の97%はハイドロキシアパタイトというリン酸カルシウムの一種からできており、人体で最も硬い組織です。
もの(主に鉱物)の硬さを表すモース硬度は10段階で表されます。
1番硬いものはモース硬度10で、ダイヤモンドがこれにあたります。
以下は、モース硬度1~10の物質の例です。
- モース硬度1:タルク(滑石〉
- モース硬度2:石膏、岩塩
- モース硬度3:大理石、金、銅、サンゴ
- モース硬度4:鉄、真珠、蛍石
- モース硬度5:ガラス、骨
- モース硬度6:オパール、正長石
- モース硬度7:歯のエナメル質、水晶、石英
- モース硬度8:エメラルド、トパーズ
- モース硬度9:サファイヤ、ルビー
- モース硬度10:ダイヤモンド
歯医者さんでエナメル質を削る時には、ダイヤモンド粒子のついたダイヤモンドバーが使われます。
エナメル質はモース硬度7で、水晶と同じくらいの硬さです。
硬いイメージのある鉄はモース硬度4、骨やガラスはモース硬度5なので、エナメル質はかなり硬い組織と言えるでしょう。
しかし、そんな硬い組織であるエナメル質は酸に弱い性質を持っています。
酸に触れると、エナメル質の成分が溶け出し、さまざまな症状が現れます。
酸蝕症の症状
酸蝕症の主な症状は、以下の通りです。
- 前歯の先端が透けてザラザラする
- 奥歯にくぼみができる
- 歯が黄ばむ
- 歯がツルツルになる
- 詰め物と歯との間に隙間ができる
- 歯がしみる
前歯の先端が透けてザラザラする
歯が溶けて薄くなり、前歯の先端が透けてきます。
また、ヒビが入ったり、欠けやすくなり、前歯の先端がザラザラしてきます。
奥歯にくぼみができる
上の写真はピクルスとビタミンCのサプリメントを頻繁に摂取されていた患者様の写真です。
歯ぎしりも加わり、奥歯の噛み合わせの面がすり減り、深いくぼみができています。
歯が黄ばむ
表面のエナメル質が溶けて薄くなることにより、内部の黄色い象牙質がさらに透けて見えてるようになります。
歯がツルツルになる
本来歯の表面にある細かな凹凸がなくなり、不自然にスベスベしたツヤのある歯になります。
詰め物と歯との間に隙間ができる
歯が溶けて、詰め物と歯との間に隙間ができたり、詰め物が外れやすくなります。
歯がしみる
冷たいもの、甘い物、冷たい風、酸っぱいものなどの刺激で歯がしみます。
このように、酸蝕症は見た目の問題だけではなく、知覚過敏などのリスクのある疾患なのです。
酸蝕症の原因
昔は酸蝕症といえばメッキ工場やガラス工場で酸性のガスを吸うことで起こる、職業病の一種として知られていました。
しかし現代では、酸性の飲食物の過剰摂取が一番の酸蝕症の原因とされています。
酸蝕症の原因となる飲食物
私たちの口の中は、普段は中性のpH7前後に保たれており、pH5.5以下になるとエナメル質のミネラルが溶け出します。
このミネラルが溶け出すことを脱灰といいます。
歯のミネラルのが溶け出す最も高いpH値を“臨界pH”といい、エナメル質でpH5.5、象牙質でpH6.0~6.2です。
以下に酸蝕症の原因となる酸性度の高い(歯が溶けやすい)主な飲食物の例を挙げます。
- 柑橘類pH2.0〜3.0
- 炭酸飲料pH2.0〜3.5
- 梅酒pH2.9
- 黒酢ドリンクpH3.1
- スポーツドリンクpH2.0〜3.5
- 乳酸菌飲料pH3.6
- ワインpH3.2〜3.8
- 野菜ジュースpH3.9
- ビールpH4.0
- 日本酒pH4.3
- ブラックコーヒpH 5.0~5.6
以下は飲食物やその他の物質のpHの数値を表にしたものです。
白ワインと赤ワイン、どちらが歯が溶けやすい?
ワインが歯を溶かすリスクが高いことはお分かりいただけたかと思います。
では、白ワインと赤ワインで歯の溶けやすさの違いはあるのでしょうか。
以下はブドウ品種別のpH の違いです。
- リースリング、シャルドネ(白ワイン)・・・・pH3.3
- シュナンブラン(白ワイン)・・・・・・・・・pH3.5
- メルロー(赤ワイン)・・・・・・・・・・・・pH3.6
- カベルネ、シラーズ(赤ワイン)・・・・・・・pH 3.8
白ワインと赤ワインを比較すると、白ワインの方がpHの値は低く、酸性度はより高くなります。
つまり、白ワインの方がより歯が溶けやすいといえるでしょう。
飲食物以外の酸蝕症の原因
酸性の飲食物以外に、酸蝕症の原因となるものには、胃酸の逆流や嘔吐などもあります。
加齢、肥満、ストレスなどが原因で起こる逆流性食道炎は、強い酸性の胃液や消化途中の食物が、食道に逆流して、炎症を起こします。
その逆流した胃酸や、胃酸による酸性ガスが口の中に入ると、酸蝕症の原因になるのです。
また、摂食障害による嘔吐も胃酸を逆流させるため、酸蝕症の原因になります。
特に前歯の裏はダメージを受けやすく、知らぬ間に歯が薄くなっていることがあります。
歯が溶けにくいお酒は?
焼酎、ドライジンなどの蒸留酒は、製造過程で揮発性の酸のみが含まれることになるので、pHは高い傾向にあります。
- ドライジンpH8.3
- 焼酎pH8.0
酸蝕症の治療法
「歯がしみる」「歯がくぼんできた」など、酸蝕症の症状がある方は、歯医者さんで相談してみましょう。
酸蝕症の治療は、早期発見、早期指導が重要です。
まずは酸蝕症の原因を明らかにして、生活習慣の改善を図ります。
酸蝕症の原因となる生活習慣が改善できていないと、酸蝕症は改善しません。
軽度の酸蝕症の場合は知覚過敏への対処として歯の神経の興奮を抑える効果のある硝酸カリウム配合の歯磨き粉を使っていただきます。
また、硝酸カリウム製剤を歯医者さんで塗布することもあります。
中等度の酸蝕症の場合はくぼみをプラスチックで埋めます。
重度になると、セラミックなどの被せ物を入れることもあります。
酸蝕症のリスクを減らすワインとの上手な付き合い方
ワインが酸蝕症の原因になると分かっていても、ワインが好きな方にとって、ワインを飲まないようにするのは非常に辛いことだと思います。
私もワインは好きでよく飲むので、イタリアンやフレンチの食事でワインを飲まないなんて考えられません!
そこで、私が実践している酸蝕症のリスクを減らすワインとの付き合い方をご紹介します!
- 食事と一緒にワインを楽しむ
- ワインだけでゆっくり長時間かけて飲まない
- こまめに水で洗い流す
- ワインを飲んだ直後に歯磨きをせず、水で洗い流してから歯磨きする
- 毎日は飲まない(週に1回程度)
- ワインを飲む代わりにスポーツ飲料やジュースなどは控える
- フッ化物配合の歯磨き粉を使って歯を強くする
- 優しい力で歯磨きする
このように口の中にワインが滞留する時間を短くしたり、歯のケアをして、酸蝕症のリスクを減らす工夫をしています。
また、お料理とのマリアージュも、ワインを楽しむ醍醐味の一つです。
チーズには、酸性に傾いたお口の中を中和させ、歯が溶けるのを防ぐ効果があると、WHO(世界保健機構)も認めています。
特にハード系チーズは、よく噛むことによって唾液が出やすくなり、唾液による歯を酸から守る効果も働きやすくなるのでオススメです。
まとめ
ワインは、適度に楽しむ分には健康に良い飲み物です。
しかし、酸蝕症のリスクを理解して、健康的なワインライフを楽しむことが大切です。
酸蝕症のリスクを減らすためには、ダラダラと時間をかけて飲まず、こまめに水で口をゆすいだり、歯を強くする歯磨き粉を使って優しく歯磨きすることが大切です。
また、ワイン以外の酸性の飲食物の摂取頻度にも気を付けましょう。
歯は年齢を重ねるほど傷み、酸の影響を受けやすくなっています。
特に口が乾きやすいという方は、歯を守る唾液の力が十分に働かなくなり、酸蝕症になる可能性が高くなります。
酸蝕症は、虫歯や歯周病に続く第三の歯の病気で、現代の生活習慣病です。
一生自分の歯でストレスのない食事をするためにも、定期的に歯医者さんで歯の健康状態をチェックしてもらいましょう。